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その日、俺は
ねこを拾った



「………」



最初は、ごみだと思っていた。

仕事帰り、夜も深まった時間。
マンションのゴミ捨て場にあるダンボール箱に、目がいった。
街頭に照らされたそれは、ぽつんと、路上に鎮座していた。

本来なら無視するそれに意識がいったのは、



「にゃあ、」



微かな、鳴き声。
そっと近づいて中を覗くと、小さなねこが、ふるふると震えていた。
箱の隅で踞るそれは、俺のことを見上げようともしない。

マンションはペット可ではないけれど、それなりに動物が好きな俺にとって、この今にも消えてしまいそうなほど小さい生き物を放っておくことはできなかった。



―――斯くして、今に至る。



「大丈夫、かなぁ……」



マンションに連れて帰って、タオルケットでねこを包んだ。
部屋の明かりの下で見ると、ねこはひどく汚れていて、怪我をしているようだった。
それほど重症ではないのか、衰弱している様子はなく―――代わりに、ひどく怯えていた。



(………虐待でも、されたんだろうか)



明らかな、人に対する怯え。
近づいたり、大きな音をたてるだけでびくりとしてしまう。
汚れを落とそうにも、なにもできやしない。

明日は幸運にも休みで、朝一にでも、病院に連れていこうと考えた。



「にゃぅ……」
「………おやすみ」



明日の朝、死んでなければいいが、と心中穏やかでないまま、目を閉じた。



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