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「ただいまー……」
家に帰ってきて、部屋に直行。
階段を上がる。
「……?」
かり、かり、と小さい音がした。
何か固いものを引っ掻くようなその音は、部屋に近づくにつれはっきりと聞こえるようになる。
(……千夏の部屋?)
音の行方をたどったとき、ぱたりと、その音が消えた。
同時に、勢いよく今しがた見つめていたドアが開く。
「わっ」
「ゆ、じっ」
開いたドアから飛び出してきたのは、千夏。
そのままぎゅ、と腰に抱きついてきた。
「びっくりしたー……」
「んー……」
甘えるように、すり、と頬を寄せてくる。
微笑ましくなって、柔らかい髪をそっと撫でた。
「ただいま」
「おかえり、なさぁい……」
……尻尾が見えるようだ。
「部屋、入ろ」
「ん……」
それでもなお、離そうとしない。
無理矢理離すのも気がひけて、そのまま抱き上げた。
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