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「ちなは、綺麗だよ」
「ぼく?」
「うん」
きょとん、とした顔で俺を見ていた。
大きな目に、それを縁取る長い睫毛。
小さな鼻と、きゅっとした唇。
誰にも見せたくないのは、見た目の美しさだけじゃない。
心の美しさだって、そうだった。
「汚くなんかない。千夏は、綺麗だよ」
「……ほんとう?」
「うん。俺が、嘘吐いたこと、あった?」
「……ない」
小さな小さな手を握った。
こうやって、千夏は不安になっていくんだろう。
自分が普通じゃない環境にあったことに気付いていくにつれ、不安になっていくんだろう。
そこで誰かが腕を引いてやらないと、このこは迷子になってしまう。
間違っていないんだよ、と。
ここにいていいんだよ、と、伝えてあげないといけない。
「ちな、大好きだよ」
生きていてくれて、ありがとう。
ふらりとわからなくなる意味を、俺が教えてあげると決めた。
「ずっと、俺のそばにいて」
ふわ、と千夏が嬉しそうに笑うから。
俺はそっと、小さな身体を抱き締めた。
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