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なかなかリビングに顔を出さない千夏を迎えに寝室に戻ると、千夏はゆらゆらと自分の腕を宙の伸ばしていた。
そこに残っている傷痕を、俺は知っている。

華奢な手。
細い腕。
小さな、身体。

最初出会った頃よりはふっくらとしてきたとは言え、まだまだ十六歳のそれとは思えないくらい小柄だ。
腕だけではあい、身体に残る傷痕さえ、普通はあり得ないもの。

それを、どんな思いで千夏は見ているのだろうか。



「きたない、よ」



ぽつりと、千夏は言った。

死にたいと思って傷ついてきた。
けれど、それは証だった。

一生懸命、生きてきた証だった。
一生懸命、生きようとした証だった。



「汚くなんか、ないよ」



構わず、千夏の細い腕にキスをした。
ぽこぽことした傷痕が唇に触れた。

新しい傷は、今はない。
いつかこれから出来るのかもしれない。
そうならないように、俺は祈る。



「ゆじ、は、きれい」
「俺?」
「きれい」



する、と俺の手の甲を撫でられた。
愛でるように、優しい顔をしていた。

そんな顔が出来る千夏の心は、誰よりも、美しいと思うのだ。



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