3
 

(やばっ……)



気付いたときには遅かった。
千夏の不貞腐れたような顔は、段々と泣きそうなそれに変わって。

掴まれていた腕を、乱暴に振り離された。



「ちなっ」



ぱたぱたぱた、と寝室の方に走り去ってしまう。

けれどすぐには追いかけられず、とりあえず電話での用事を済ませる。
携帯を置いて寝室に行った頃には、千夏はベッドの上で丸くなっていた。



「……ちな」



布団の中に丸まって、それは身体を隠しているようで。
背中があるであろうそこを撫でると、びくりと身体が強張った。



「ちな、出ておいで」



初めてのことだった。

千夏の不満そうな顔や、不貞腐れたような顔。
嬉しかった。
けれど、教えなければいけないこともある。

自分の思い通りにいかないことだって、この先きっとある。
『待つ』ということを覚えなければいけないのだ。



「千夏」



呼ぶと、恐る恐ると言ったように、布団から千夏が顔を出した。



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