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(やばっ……)
気付いたときには遅かった。
千夏の不貞腐れたような顔は、段々と泣きそうなそれに変わって。
掴まれていた腕を、乱暴に振り離された。
「ちなっ」
ぱたぱたぱた、と寝室の方に走り去ってしまう。
けれどすぐには追いかけられず、とりあえず電話での用事を済ませる。
携帯を置いて寝室に行った頃には、千夏はベッドの上で丸くなっていた。
「……ちな」
布団の中に丸まって、それは身体を隠しているようで。
背中があるであろうそこを撫でると、びくりと身体が強張った。
「ちな、出ておいで」
初めてのことだった。
千夏の不満そうな顔や、不貞腐れたような顔。
嬉しかった。
けれど、教えなければいけないこともある。
自分の思い通りにいかないことだって、この先きっとある。
『待つ』ということを覚えなければいけないのだ。
「千夏」
呼ぶと、恐る恐ると言ったように、布団から千夏が顔を出した。
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