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side.千夏
白い箱のなかで過ごしていたあのひ。
ひらくドアにおびえていたあのひ。
ドアは、地獄のサイン。
ーーー新しいご主人様だよ。
知らないだれかへ、売られたあのひ。
「っ、ぅ、あっ……」
何度もいたみをおぼえた。
ベッドがきしむ音がきらいだった。
勝手にでてくる自分の声も。
後ろから聞こえる荒い息も。
すべて無くなって、消えてしまえばいいと思った。
たいていは、気を失って、朝めをさました。
ベッドから落とされていた。
誰もいない家で、ひとりでシャワーをあびた。
お湯の出しかたも知らないくせに、後処理だけは知っていた。
こびりついた、僕の日常。
気を失わなかった日は、自分でベッドからおりた。
部屋の隅にうずくまって、ご主人さまが眠るのをまった。
ねむってから、僕はようやく、目をつむれた。
ご主人さまがいなくなってから、シャワーをあびる。
そして夜には、また嫌な音を聴く。
毎日毎日毎日毎日。
あるとき僕は、しぬことを覚えた。
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