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「ゆぅじっ」
「!」



どん、とぶつかるように抱き付いてきた千夏に、はっと意識が戻る。
あの日のことを思い出していた。

見下ろすと、千夏はにこにこと笑っていて。
ちょうど胸元あたりまで伸びた背が、千夏の成長を感じさせた。



「おっと、まだ終わってませんよ。……まぁ、いいでしょう」



瀬谷先生が苦笑していた。



「千夏くん、調子が悪くなったら、すぐ裕二くんに言うこと
「はい」
「また、来ますからね」
「はい、せんせい」



千夏の手は、俺の服の裾を掴んだまま。



「それでは」
「せんせい、ありがとう、ございました」
「有難うございました」



ぱたん、と瀬谷先生が出ていく。
本当は玄関まで見送るべきなのだろうが、いつもここでお別れなのに慣れている。



「ゆ、じ」
「ん?」



ふわ、と笑いながら、千夏は俺に腕を伸ばした。
これは知ってる。
抱っこのサインだ。

抱き締めると、千夏がふにゃ、と笑うのがわかる。
記憶のなかの泣き顔とは違う。



「ふふ、」



嬉しそうに笑う。

いつだって千夏は、俺を必要としてくれる。



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