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「よく眠れますか?」
応接間にいるのは、俺と千夏と白衣の男。
定期的に行われるカウンセリングの日だ。
ソファに座って千夏と向かい合っているのは、父と同じ病院で働く、瀬谷先生。
ふわりと笑いながらの問い掛けに、千夏も小さくはにかむように笑う。
「はい、せんせい」
瀬谷先生は、少しだけ千夏に似ている。
その柔らかな雰囲気も、千夏が安心している理由の一つだろう。
カウンセリングの間、俺は千夏の隣を離れている。
さすがに同じ部屋にいるけれど、一対一で話をするためだ。
「うん、落ち着いてきたね」
その瀬谷先生の言葉は、窓辺に寄り掛かって立つ俺にかけられている。
落ち着いて『きた』というのは、『良好』とは違う、まだ治療段階だということを暗に示している。
良くなってきていることにはかわりないけれど。
ちらりと見た千夏の細い手首には、はっきりと、包帯が巻かれていた。
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