1
「あ、い、う、え、おっ……」
小さな声で言いながら、紙にペンを走らせる。
ソファで雑誌を読んでいると、テーブルから千夏がやってくるのがわかった。
できたかな。
「ゆじっ……」
「うん?」
見せてくれたのは、紙に書いた文字。
簡単なひらがなは、千夏にとっては難しいもの。
一生懸命なそれに嬉しくなる。
「ん、よく書けました」
頭を撫でると、ふゃ、と安心したように笑う。
篠崎さんが来た日から、千夏は精神的に安定した。
体調も前より良くなって、俺が学校に行ってる間にたくさん勉強している。
「……あ」
時計を見ると、午後14時前。
実は今日、悠達がやってくる。
千夏には内緒だ。
休みの今日にまで生徒会の仕事をするつもりはなく、遊びにくるだけ。
悠は以前から千夏に会いたがっていたし、そろそろ千夏も世界を広げていいんじゃないかと思ったから。
千夏が怖がれば帰るとも、悠は了承してくれた。
「ちな、俺ちょっと出掛けてくるね。すぐ帰ってくるから、お留守番できる?」
飲み物やお菓子を買いに行こうと考えた。
出掛けるという言葉に少ししゅんとしながら、お留守番という言葉に千夏の表情が変わる。
「できるっ」
この笑顔が、消えなければいい。
前へ top 次へ