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「ただいまー」



ドアを開けて呟くと、ぱたぱた、と階段から音がした。



「おかえり、なさぁい、」



すっかり歩けるようになった千夏は、ぱぁ、と安心したような笑顔を見せて俺に抱きついてきた。
尻尾が見てるようなそれは、毎日でも嬉しい姿。



「ただいま。いいこにしてた?」
「あの、あのね、本、よんだの」



千夏は目下勉強中。

義務教育をすっ飛ばしたせいで、文字さえも読めなかった。
今は少しだけ、読めるようになってきた。



「ん、いいこ」



頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細める。

こんな柔らかい表情ができるなんて、初めて出会ったときは思いもしなかった。
怯えて、涙を流して、周りはすべて敵という、頑なな絶望。
もうあんな思いは、させてあげたくない。



「部屋上がろ、ほら」
「ぅ」



千夏は俺の腰に腕を回して、頭を胸元にぐりぐり押し付けてくる。
こんなときは、甘えたい証拠。
そのまま抱き上げて、階段をのぼった。



「着替えるから、ちょっとだけ」



そういうとおずおずと手を離すけれど、着替え終わった瞬間に抱き付いてくる。
人肌に触れていないと、不安で仕方がないというように。



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