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篠崎さんは、帰っていった。
今は義父の元を離れ、仕事をしているそうだ。
また会いにきてもいいか、との問いに、俺は迷わず肯定した。
千夏は、あれから泣いた。
悲しいのか、苦しいのか、嬉しいのか。
何度も何度も、しつじ、と呟きながら泣いた。
本当は、少しだけ怖かった。
千夏は篠崎さんを怖れなかった。
むしろ、必要としていた。
俺のそばよりも、篠崎さんの方が、いいと言うんじゃないかと。
篠崎さんと共に、行ってしまうんじゃないかと。
そんな憂いを吹き飛ばしたのは、必死に俺にしがみつく、千夏の小さな身体だった。
「ちな」
「っ………」
「……泣かないで」
ぽろぽろと泣きながら、ソファに座る俺の膝の上に座って、ぎゅうぎゅう抱き付いてくる。
まだまだ平均を大きく下回るけれど、最初の頃よりは成長した身体。
そっと背中を撫でて、千夏が落ち着くのを待った。
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