5
side.千夏
「ちな、」
ゆうじの部屋で、おるすばん。
少し、眠くなってきたところ。
「う……?」
「千夏にね、会いたいって人がいるんだ」
ゆうじが部屋にもどってきて、そう言って。
ドアから、入ってきたのは、
「……千夏、様」
どくんっ、と心臓が跳ねた。
知ってる。
このひと、知ってる。
「ちな、大丈夫」
ゆうじが手をぎゅってしてくれて、ぼくは、その人を見つめた。
ここは、あそこじゃない。
ゆうじがいる。
この人、は、
「……頑張りましたね」
知ってる。
この、声。
優しい、声。
「し……しつじ、」
「……はい。……もう執事ではないですが」
知ってる。
敵、じゃない。
ぼくのそばにいてくれた。
眠るまで、ずっと。
ゆうじと似た、笑い方をするひと。
「しつ、じ、しつじ、」
「はい」
知ってる。
ぼくを、助けてくれた。
「あ、ぁ……あの、」
「ちな、ゆっくりでいいよ」
ゆうじが背中を擦ってくれる。
この手をくれたのは、
出会わせてくれたのは、
「あ、りが、とう」
しつじ。
初めて、ないた顔をみた。
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