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「父の目を盗んで、外部と連絡を取り………千夏さんが保護されたときは、心から、安心しました」
「じゃあ、あなたが……っすみません、俺っ」
「……いいんです」
篠崎さんは、優しく笑った。
「見て見ぬ振りをしていたのは事実です」
「でも、篠崎さんがいたから、千夏は、」
「私が早く行動を起こせていれば……父を恐れなかったら、千夏さんはあんなことをされずに済んだ」
責められるべき人ではないのはわかるけれど、篠崎さんはそれをさせなかった。
「私は解放され、千夏さんが新しい生活を始めたことを知りました」
「………」
「……一目、会いたくて」
俺はぎくりと身体を固めた。
そう提案がくるのはわかっていた。
篠崎さんは加害者じゃない。
けれど、千夏からしてみれば、事実はどうであれ加害者側にいた人。
会わせることで、トラウマが甦らない可能性は、ゼロじゃない。
少なくとも、あの日々を、思い出すだろう。
「……わかります、私に出会えば、千夏さんは思い出してしまう」
俺の表情で察したように、篠崎さんは口を開いた。
「もう、あの子を苦しめたくない」
「篠崎さん、」
「私の我が儘です。……代わりに、あの子が今どんな生活をしているのか、教えていただけますか?」
千夏の幸せを願う、笑顔。
一人じゃ、なかったんだ、と。
千夏にとっては、孤独だったかもしれないけれど。
こうして、想ってくれた人がいたんだよ、と。
どうしてか、泣きたくなった。
「………会ってやって、ください」
「え……?」
「大丈夫です、千夏はきっと、わかります」
辛かったことを、思い出すかもしれない。
けれど、想われていたことも、理解するかもしれない。
忘れるだけじゃなく、乗り越えることも、必要なのかもしれない。
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