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気付いたら、机を挟んで向かい側にいた篠崎さんの胸ぐらを掴んでいた。
「お前が、っ……!」
「……正確には、千夏さんを購入した男に、私は仕えていました。いわば同罪といってもいいでしょう」
篠崎さんは覚悟はしていたと言わんばかりに、静かに目を瞑った。
その姿に、血がのぼった頭が急に冷えていく。
掴んだシャツの隙間から見えた、鎖骨。
千夏のそれに似た、煙草を押し付けられた後。
違う、と頭の片隅で理解した。
こいつは、千夏を痛めつけた人間ではなく―――。
「……動揺させてしまって、すみまさん」
「………いえ、俺も、失礼なこと」
手を離して、再びソファに座る。
「私は、屋敷に仕える執事でした」
「執事、」
「ええ。千夏さんは、そのとき仕えていた主人に買われて、屋敷にやってきたのです」
―――ごしゅ、じ、さま
千夏の声が、聞こえるようだった。
「そこで何をされていたかは―――想像の通りかと思います」
「………」
「私は仕えていた身であり、主人に逆らうことは出来ませんでした。……しかし、」
篠崎さんは、膝の上で拳をぎゅっと握っていた。
「気を失ったり、泣きわめいたり、時には助けを求める千夏さんを見て―――私は主人を、自分の父を、裏切ってでも、助けたいと思いました」
「父……?」
「義父、ですが……母の再婚相手で、母が亡くなってから、私は義父の執事として、生活をさせられていました」
つまりは、奴隷と同じようなもの。
形は違えど、俺にもわかる。
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