3
廊下に出て、千夏の視界から完全に消える。
「ゆう、じっ……」
不安そうな声が、携帯から聞こえる。
「ちな、」
「っ………ゆ、じ?」
「うん」
「いない、でも、いる」
あ、混乱してる。
部屋に戻ると、千夏は首を傾げて携帯電話を見つめていた。
「あのね、これは遠くにいても、話ができるようになるやつ」
「いない、のに?」
「そう。だから、千夏が寂しくなったら、これを使えばいい。俺と、話ししよ」
少しは理解ができたのか、千夏は大事そうに、携帯電話を抱き締めた。
「だいじ、だいじに、するっ……」
「ん、使い方も、また教えるね」
「あ、あり、ありがとう、っ」
嬉しそうに、笑う。
多分、無意識なのだろう。
前に比べて、随分と表情が豊かになった。
会話も、できるようになった。
前に進んでいると思う。
「あの、あのね、」
「ん?」
「ぼ、ぼく……ずっと、まってる、ゆじ、帰ってくるの」
すっと、千夏がドアを指差した。
「あそこで……まだかなぁって、おかえりなさいって……」
「………」
「あしおとが、する、ゆじの……そしたら、うれしい、」
はにかむような笑顔は、俺に向けられている。
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