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「実家?どこって言ってた」
「いや、場所は知らねぇけど……」
「佐倉に父親はいない。母親は……もう何年も会ってないはずだ」
「え?」
佐倉ははっきりと、母親の具合が良くないと言った。
母親と疎遠関係にあったのが、回復したというのだろうか。
「母親と和解した……ってのは、正直言ってあり得ない」
「和解?」
「……まだ佐倉から聞いてなかったか」
穂積は少し悩んで、けれど話しだした。
「佐倉は母親から虐待を受けてた。母親は和解を求めてはいたが、佐倉は相当憎んでる。……きっかけに過ぎないが、売りをしていたのもそのせいだ。自分の力で生きていくために」
「なっ……」
「自宅でもない、実家でもない、違うところに佐倉は今住んでるんだろ」
佐倉の想像を超えた孤独さに、頭がついていかない。
虐待の事実も、売りをしていた理由も、こういう形で知るとは思わなかった。
住まいはどこかという予想は、あと一つしか残されていなかった。
「佐倉の、付き合ってるやつの家か」
「……今何て?」
「今付き合ってるやつがいるって……昨日、会って、一緒に帰っていった」
「……妙だな」
何が妙なのかわからずにいると、穂積が手招きして、俺をカーテンの中に呼んだ。
「見ろ」
「……!」
緩めるために開けられた胸元のシャツから、赤い印がいくつか見えた。
同じく捲くられたズボンの裾から―――赤黒い痣が、足首を一周するような形で残っていた。
「っ、これ」
「例の恋人だとしたら、相当やばいことに突っ込んでそうだ」
足に残る拘束の痕も、体調を崩すほどの情事の残り香も、普通のこととは思えなかった。
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