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「駅まで行くだろ?」
そう言われたら断れなかった。
雪村さんの家までは駅から一駅行ったところにある。
必要な物は半ば強制的に雪村さんの家に運ばれてしまったから、もとのマンションに戻ったところで、住むことは出来なかった。
まだ夕方の街は明るかったけれど、じわじわと東から夜がやってくるのが見えた。
僕の右斜め前に乾が歩く。
会話はなかった。
乾は随分背が高い。
同い年なのに背中が広かった。
何故だか泣きそうになった。
そうしているうちに駅までついてしまい、二歩先を歩く乾が立ち止って振りかえった。
「……なんつー顔してんの」
乾が呟くけれど、僕には自分の顔が見えない。
そっと腕を掴まれて、振りほどくことが出来なかった。
苦しそうな顔をしていると思った。
こんな乾の顔を見るのは初めてだった。
「……もう、」
終わりにしてください。
そう言おうとしたのに、苦しそうな乾の顔がそれを拒んだ。
「やっぱり、駄目だった?」
乾はそう言った。
僕は何も言えずに、口を噤んだ。
今しかなかったはずだった。
もう、関わることはやめてほしいと言えるのは、今だけだった。
けれど、
「……伊織くん?」
雪村さんの声が聞こえた。
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