3
「前よりも顔色が良くなった気がする」
するりと頬を撫でられる。
こういうことが素で出来る人だった。
嫌なわけではなかった。
けれど恋愛的な気持ちは持っていなかった。
生ぬるい、この甘ったれた空気に身を任せたくなるような、そんな気持ちはあった。
良くも悪くも、雪村さんは優し過ぎた。
「学校は?ちゃんと行ってる?」
「今のところ」
「ははっ、いつかサボる予定みたいな言い方だな」
「……雪村さん、は」
「俺は変わらずだよ」
麻薬のような甘い痺れを与えてくれる。
雪村さんは、そういう人だ。
「……これから、どうする?」
「………」
食事を終えて外に出た。
夜風は思ったよりも冷たかった。
暗に示していることはわかっている。
ぐだぐだと甘い痺れに身を委ねたいとも思う。
守るものなんて何もないとも思う。
けれど、ただ一つだけ、脳裏に浮かぶものがある。
「……すみません」
「………ん」
雪村さんは少しだけ悲しそうに笑った。
「もう遅いし、送るよ。あっちに車置いてるから」
ぽん、と頭を撫でた手は、優しかった。
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