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「こんなところで会えるなんてね」
夜の雰囲気を色濃く残したレストランは、病院帰りの僕の服装では少し浮いてしまう。
ホテルの最上階にあるそこはひどく景色が良い。
向かいに座る男は柔和に笑う。
再会したのは、本当に偶然だった。
「……伊織くん?」
病院の帰り、街を歩いているときだった。
金曜日の夜の街は賑やかで、喧騒に紛れるように早足で歩く。
喧騒の中で突然聞こえた名前に、思わず立ち止った。
「……あ、やっぱり。伊織くんだ」
背後から聞こえた声は、聞いたことがあるものだった。
小走りで近付いてきたその人物は、見るに久しい。
「雪村さん……?」
「久しぶりだね」
仕事帰りなのだろうか、濃いグレーのスーツを着てはいるけれど、ネクタイは少し緩められている。
雪村さんは僕の記憶の中と同じく、柔らかな笑みを浮かべた。
「よかったら、食事でも行かない?」
断る理由もなく、僕は雪村さんに着いて行った。
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