5
「……俺は、佐倉が好きだ」
「っ」
言った途端、佐倉の肩にある俺の手から逃れようと身体を捩る。
逃げるようなそれに、両肩を掴んでこちらを向かせた。
「逃げんなっ」
「っ、離して、」
「聞けよ!」
思いがけず大きな声が出て、佐倉が怯えたように身体を固まらせた。
「……ごめん」
「………」
「でも、聞いて。お前の気持ちは聞かない。言わなくて良い」
驚いたように見開かれた目を、じっと見つめた。
「応えなくていい。邪魔ならそう言えばいい。嫌うなら目の前から消える」
「っ……」
「だから、佐倉のこと、好きでいさせてほしい」
自分を肯定できずに、他人からの好意を素直に受け取れない。
きっと受け取ることは、佐倉にとっては自分への肯定だから。
だったら、受け取れるまで、待つ。
「これは『俺の』我が儘だから」
佐倉が気を負う必要はない。
気持ちを押し付ける気はない。
うまく気持ちを表せないなら、それでいい。
「……おい、なんか言えよ」
「………」
言っておいて恥ずかしくなって、佐倉の肩を揺らす。
佐倉は俯いて、本当に小さく、こくりと頷いた。
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