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「なんっ……」
腕の中で慌てているのがわかって、ようやく正気に戻って咄嗟に身体を離す。
「っ、わり」
「………?」
佐倉は最初の頃に比べて、随分心を開いてくれるようになった。
前よりも表情がくるくる変わるようになったし、喋ってくれるようになった。
けれど、佐倉の過去を、俺はまだ知らない。
どうしてこんな広い部屋に一人で住んでいるのか。
両親はどうしているのか。
何故売りなんて始めたのか。
他人を寄せ付けたくないとつっぱねる癖に、人一倍、人のぬくもりを求めてる。
「……俺、ここ住もうかな」
「………はい?」
「あ」
佐倉は眉を顰めて、ん?と首をかしげた。
勢いで言ってしまったけれど訂正も出来ず、もごもごと繋げる。
「いや、なんつーか……心配っつーか……」
そもそも今自分の膝の上に同級生の男を座らせてるってどうなんだ、と今更ながら思い至って、もぞもぞと立ちあがろうとするけれど、
「……乾君って本当……お人よしですね」
「あ?」
馬鹿にしたように言われて、思わず声音を低くした。
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