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「何でさっき泣いてたんだよ」
自然と一緒に帰ることになっている放課後には、いつの間にか慣れてしまった。
保健室から連れ出された後、歩きながら問われる。
「別に」
「……ふーん……」
体調悪いとかじゃないならいいけど、と乾はポケットに手を突っ込んだ。
その手首に先に買っておいたのだろう、コンビニの袋を提げているのを見ると、どうやらうちに上がり込む気満々らしい。
穂積先生の声が脳裏で反芻した。
乾の気持ちは知っている。
それを知っても嫌悪感はない。
その代わり、自分の気持ちはわからない。
素直になる方法なんて、知らなかった。
でも、言葉の作り方は、わかる。
家に着いて、ドアの鍵を開ける。
当然のように入ろうとする乾の目の前で、ドアを閉める。
「痛って!」
閉めたドアが乾の鼻を掠った。
今朝と同じ調子のそれに、少し面白くなる。
「さよなら」
「うっわ、ここで帰らすのかよ」
「誰がうちにあがれと言いましたか」
「そこは察しろ」
いーや、帰ろ、と乾が踵を返した。
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