3
「で?佐倉はどう思ってんの」
「……何が、ですか」
「わかってんだろ?」
穂積先生はデスクの椅子を回転させて、ソファに座る僕に向き直った。
「乾のこと」
「……別に」
「……お前は何か言いたくないことがあるとすぐに目を反らすなぁ」
言われてその通りで、顔が赤くなるのがわかった。
悔しい。
「乾の気持ち、気付いてんだろ」
「………」
「そのまま野放しにしとく気か?」
気付かないわけがない。
他人の気持ちはわかるのに、僕は自分の気持ちがわからない。
わからなくて、考えることもできなくて、いっぱいいっぱいになる。
(違う、)
ただ、邪魔だと思われるのが嫌だった。
人の心は映ろう。
誕生を待ち望んでくれた母は、今はもういない。
そうやって嫌われていくのは、もうごめんだった。
結局は自分のことしか考えられないのだ。
「僕、は……そんな、資格が、ない」
「資格?」
「そんな……お、想われ、ても」
すべて自己中心的だ。
きっと乾は幻想を見ているだけだ。
僕の傍にいたって、何のプラスにもならない。
それでも、『傍にいてほしい』と思うのは、僕の我が儘なのだ。
そうやって自分の最低さを思い知る。
他人の気持ちを利用する自分の汚さを、思い知るのだ。
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