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ホームルームに間に合うか間に合わないかくらいの、ぎりぎりの朝の時間だった。
いつものように家を出ようとドアを開け―――ようとするけれど、重くて開かない。
ようやく少しだけ隙間ができ、ちらりと外を見て溜息をつく。
「……馬鹿」
ドアに寄り掛かるようにして眠っているのは、まぎれもなく乾龍平だった。
隙間から手を伸ばして頬をつねってやった。
「いって……」
「じゃま」
「……あー……」
僕の姿を眠そうな目に捕えて、がしがしと頭を掻く。
「よく寝た、俺」
「遅刻」
「……あー……」
玄関前のひと悶着で、確実にホームルームには間に合わなくなった。
乾は携帯で時間を見て、一つ溜息を吐いた。
「あー。ほら、その、なんだ」
「……行きますよ、学校」
「……おー……」
どうやらまだ寝ぼけているらしい。
乾を退かせてドアに鍵をかける。
こっそり乾の頬をつねった指先を擦り合わせた。
ひやりと冷たかった感触を思い出して、なんとも言えない感情になる。
いつからここで待っていたのか。
「うわ、朝飯食いっぱぐれた」
「……どこで食べる気だったんです」
「お前んち」
「飯泥棒」
「ひど」
いつの日からか乾は、僕を迎えにくるようになった。
僕は何も言わず、ただそれを受け入れた。
拒否することは簡単なはずだった。
でも、できなかった。
その理由は、まだ考えたくなかった。
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