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「っふ、ぅ……けほっ、けほげほっ……」
パニックになりかけているようなそれに、思わず隣の空き教室に入る。
「や、いやだぁっ……!」
「落ちつけって、な」
「っう、けほっ……いや、」
落ちつかせようと咄嗟に抱きこむと、予想に反して突っぱねられることはなく、きゅっとシャツを掴まれた。
ずるずると床に座り込み、背中を撫でた。
腕の中にある小さな頭を見ながら、淳の言葉を思い出す。
確かに友人で、こんなことをしてやる野郎はいないし、されたこともない。
けれど嫌悪感は全くなくて、むしろ心地よささえある。
(……なんでだろうな)
佐倉だから、なのだろうか。
「う、っ……うぁー……っ」
「………」
こんなに泣いている佐倉を見るのは初めてだった。
カタカタと震えている理由もわからないけれど、何かに怯えているのは確かにわかった。
「……何かあったか?俺、何かした?」
「っふ、っぅ……ぁ、けほっ……」
「ゆっくりでいいから」
掴まれたシャツは未だに離れず、佐倉はゆっくりと、口を開いた。
「……もう、かかわらないで、ください」
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