5
 

「っふ、ぅ……けほっ、けほげほっ……」



パニックになりかけているようなそれに、思わず隣の空き教室に入る。



「や、いやだぁっ……!」
「落ちつけって、な」
「っう、けほっ……いや、」



落ちつかせようと咄嗟に抱きこむと、予想に反して突っぱねられることはなく、きゅっとシャツを掴まれた。
ずるずると床に座り込み、背中を撫でた。

腕の中にある小さな頭を見ながら、淳の言葉を思い出す。
確かに友人で、こんなことをしてやる野郎はいないし、されたこともない。
けれど嫌悪感は全くなくて、むしろ心地よささえある。



(……なんでだろうな)



佐倉だから、なのだろうか。



「う、っ……うぁー……っ」
「………」



こんなに泣いている佐倉を見るのは初めてだった。
カタカタと震えている理由もわからないけれど、何かに怯えているのは確かにわかった。



「……何かあったか?俺、何かした?」
「っふ、っぅ……ぁ、けほっ……」
「ゆっくりでいいから」



掴まれたシャツは未だに離れず、佐倉はゆっくりと、口を開いた。



「……もう、かかわらないで、ください」



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