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「や、でもパイナップル頭はなくね?」
「これはこれでかわいーけど」
「龍はセンスなさすぎ」
ヘアゴムを渡してくれた、アキと呼ばれた男が、ぴっと結ばれた髪をほどいた。
「美容師志望の俺に任せてみー」
「っ」
終わりかと思えば瞬く間に、ゴムやらピンやら駆使して髪をいじられる。
しばらくして手が離されたと思うと、いくつもの目が僕を見ているのがわかった。
「いーじゃん!」
「印象変わるな、やっぱ」
「佐倉、鏡」
乾が渡してくれた鏡を覗き込むと、いつもと違う僕がいた。
前髪がなくなっただけではなく、サイドに流れた髪はピンでいくつも留められている。
女子がしているような、編み込みがされているのには驚いた。
「お前毎日これで学校来いよー」
「……無理です」
「おっ、喋った」
「俺が毎日してやろっかー?」
いつの間にか乾たちのペースに巻き込まれてしまっていた。
周りがうるさくて、やかましくて、にぎやかで。
いつもと違う音に、僕はどうしていいのかわからないままだった。
「つーかあれな、佐倉って所謂、美少年?」
「……言われたことない……」
「そら、髪で顔隠してたらなー」
他愛もない他人との会話が、こんなに出来るとは思わなかった。
誰とも関わらずに、一人でひっそりと、死にたいと思っていたのに。
―――こんなに心地いいとは、思っていなかった。
そんな心情を知ってか知らずか、乾が少しだけ笑ったのがわかった。
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