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夏が近付こうとしていた。
教室には早くも冷房が効き始め、閉じられた窓から外気が入ることはない。
数ヶ月前には鮮やかな桃色を見せていた桜の木も、今はすっかり青々としていた。
「来週のスポーツ大会についてー……」
自習の時間にあてがわれたクラス会議、議題がクラス委員から述べられた瞬間に、僕は本を開いた。
毎年の行事であるらしいスポーツ大会は、各種目について学年関係なく順位が決められるものだ。
他学年との交流ができ、尚且つ自由にチームを組んでいいというところから、体育祭とは違うにぎわいを持っていた。
一日をかけて行われるスポーツ大会は、僕にとっては休みも同然だった。
当日もきっと、保健室で過ごすか自主休校するかだろう。
そう思いながら、我関せずを貫いて本を読もうとして、
「佐倉ー。お前俺のチームな」
突然に遠くから呼ばれた名前に、はっと顔を上げた。
声の聞こえた方向には、乾と、他数名のクラスメイト。
他人の交友関係には疎いけれど、その集団は恐らく乾を中心としたグループなのだろう。
どうしていいのかわからず座ったままでいると、乾が周りを引き連れて僕のもとにやってきた。
慌てて本を閉じ、姿勢を正す。
「警戒してんじゃねーよ」
笑った顔は、いつものそれと同じだった。
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