10
密約を果たす初っ端から、俺は失敗しそうになっている。
必要のない人間、と穂積はそう言った。
誰にとって必要のない人間だと、佐倉は思っているのだろうか。
「ごめん」
無意識下に、佐倉を傷つけた。
俺の読みがあっていれば、思想から考えると、佐倉は自己肯定感が異常に低い。
自分が傷つくことも、たとえそれが死ぬことであっても、佐倉は恐ろしいほどに無頓着だ。
俺の周りの環境に、劣等感を覚えるのは無理もなかった。
それでも尚、何かに『抗って』生きようとしている。
それだけは確かなことだった。
「顔上げろって、なぁ」
沈黙が耐えきれなくなって、俯く佐倉の頭に手を置いた。
くしゃりと髪を撫でるけれど、反応はない。
自分を肯定できないから、自分に対する他人の好意を信じる事ができなくて。
そうして一人で、傷ついてきたんだろう。
「俺は……知りたいと思ってる」
「っ……だから、」
「迷惑なのはわかってる。でも、俺は、理解したいと思ってる」
佐倉が口を開かないのを確認して、俺は続けた。
「知って、理解して……そばにいたいと思ってる」
「………はぁ?」
「言っとくが、クラスメイトとしてだからな」
慌てて付け加えると、佐倉がほんの少しだけ笑ったのがわかった。
「だから……俺は、自分がやりたくてこういうことしてんだ。佐倉が話したくないなら、それでいい。頭の片隅にでも、置いてくれればそれでいい」
「………」
「無口で無愛想なクラスメイトと仲良くなるために、理由がいるか?」
ぱっ、と頭に置いた手を払われた。
「無口で無愛想って、誰のことですか」
「自覚がないのがよっぽど性質悪ぃな」
じろ、と睨んできた佐倉の目は、少しだけ、赤かった。
きっと佐倉の周りには、知ることすらする人もいなかった。
近付こうとする人もいなかった。
だったら、俺が、少しずつ。
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