9
「佐倉は絶対に、自分のことは話さない」
俺が半ば勢いであんなことを言ってしまった後、穂積からそう言われたことがある。
いつものように保健室にサボりに来ていた、午後の日のことだった。
「俺はこの立場上、知ってるけど。言いたくなるようなものじゃないし、正直聞くにも重すぎる」
「……放っておけっつーのか」
思わず拗ねたような声音になってしまって、気付いた穂積がカラカラと笑った。
「何、本気になったわけ」
「……興味本位だっつの」
「ま、どっちでもいーけどね、俺は」
からかうようなそれに一つ文句を言おうとするけれど、途端に穂積が真剣な表情になって、俺は慌てて口を噤んだ。
「佐倉が話しはじめたら、それはお前を信頼してる証拠だ」
「……どうせ俺は信頼されてねぇよ」
「……やめるか?」
穂積の問いは、まるで『やめるな』と暗に言っているようで。
「やめるなら、とっくに手ぇ引いてる」
「はっ、そうだな」
穂積も穂積なりに、佐倉のことを心配しているのだろう。
「佐倉は……自分が必要ない人間だと思ってる」
聞こえた穂積の声は想像以上に低かった。
「誰にも言わないまま、誰にも肯定されずに、ただ必要のない人間だと思ってる。だから、あいつのことを理解したら……」
その懇願が、理解できないわけじゃない。
「………貸しはでかいと思うけど?」
「……十分だ」
密約成立と言うように、穂積は白衣のポケットから、煙草を投げてきた。
前へ top 次へ