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「……ん、乾君、」
「……あ……?」
「何やってるんです、こんなところで」
どうやら俺はいつの間にか寝てしまっていたらしい。
身体を揺すられて目を覚ますと、目の前に俺と同じく私服姿の佐倉がいた。
「……どこ、行ってた」
「え?……病院ですけど……そういう乾君は何を」
「え、あ……これはだな、新商品のお菓子が入ったそうなので」
我ながら何言ってんだと思いつつ、お菓子を入れた袋をさしだす。
佐倉は一瞬きょとんとして、
「なんですかそれ」
と、くす、と笑った。
初めて、笑った顔を見た。
思わず片手で抱き寄せると、軽い佐倉はそのまま俺の腕の中に入った。
「……寝惚けてます?」
「……っくし」
「何だってこんなとこで寝てたんです、風邪ひきますよ」
離してください、と言われ、冷静になって腕を離した。
佐倉は部屋の鍵をあけて、中に入ろうとする。
「……入りますか」
「おう」
「新作って……ポッキーなんて前から売ってますよ」
言いながら袋の中を見る佐倉は、また少しだけ笑っていた。
取っつきにくいやつだと思っていたけれど、少しずつ、許してくれる。
まるで氷が溶けていくように、佐倉は懐に入ってくる。
それが佐倉という人間なのか―――俺には心を許しているという意味なのか、俺にはまだ、わからなかった。
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