3
いつだって、思い出すことができた。
「死ぬなら身体なんてどうでもいい」と言った佐倉と、思わず叩いてしまったあとの怯えてる佐倉と、堰が壊れたように泣いた佐倉と。
どうでもいいと、本当に佐倉は思っていて、だからこそ怖くなる。
いつか、桜が散るように、いつのまにか死んでしまうんじゃないか。
だから、こんなに気になって、いかないでほしいと思ってしまう。
――斯くして俺は、ここにいる。
「……いねぇ……」
すっかりお馴染みになった佐倉の家にやってきた。
連絡はもちろんとってない(そもそも知らない)が、金曜日の夜となれば、いるだろうとも思っていた。
しかしチャイムを鳴らしても返答はなく、窓の奥は暗闇であることからも、不在なのだとわかった。
こんな時間にどこへ、と思いながら、ふと一つの答えにたどり着く。
また、身体を売っているのではないだろうか。
しかし穂積にあれだけ止められた矢先、そんなことはないだろうと思ったし――そう、信じたかった。
(……買い物にでも行ってんだろ)
そう決め込んで、ドアの前で腰を下ろした。
隣にお菓子を買い込んだコンビニ袋が座った。
寒空の下で、買ったばかりのジーンズをコンクリートで冷やしながら、俺は何をやってるんだと考えた。
衝動で動いたこの感情を言葉に出来るほど、俺は大人でもなかった。
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