2
それから佐倉の体調は回復し、学校にも行けるようになった。
もちろん、俺が居座る理由もないので、とっとと寮に帰ることにした。
何気ない、いつもの毎日が始まった。
教室に入ると、馬鹿騒ぎする仲間たちがいた。
喧騒に紛れるように、佐倉はそっと、窓際の席で本を読んでいた。
話しかける理由もなく、少し前の生活に戻っただけだった。
何の支障もなく、毎日を適当に過ごす日々だった。
ただ、一つ変わったことがある。
ちらりと佐倉と、目が合うときがある。
なんともない、単なる偶然かもしれない。
けれど露骨に避ける理由はないので、俺は小馬鹿にしたように笑う。
すると、佐倉は、ぺこりと小さく会釈をするのだった。
会話をせずに、何日も経った。
けれど目があえば、何となく意思疎通をする。
友達のような、友達でないような不思議な距離感に、俺はどうしていいのかわからなくなっていた。
暗い、大人しい、そんな印象しかなかった佐倉の、あんな姿を見てしまったから。
―――『……ごめ、な、さい……』
誰にむけた、言葉だったのだろうか。
前へ top 次へ