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佐倉の家のリビングで、漫画を読んで寛いでいた。



「……―っ、」



ドアの向こうから微かに聞こえた声に、目でも覚ましたかと重い腰を上げた。



「…………」



見れば、運んだままの、ぐったりと眠っている姿しかなかった。
寝言だったのかと、そのままリビングに戻ろうとした。



「……ごめ、な、さい……」



初めて聞いた弱々しい声に、思わず足が止まった。
そっとベッドに近づくと、佐倉はシーツをきつく握りしめたまま、ぽろぽろと泣いていた。



(………あ、)



綺麗だ、と思った。

元々の色素の薄さが、熱で赤くなった頬を目立たせていた。
微かに震える長い睫毛には、涙の雫がのっている。

無意識に、触れていた。
理由などなかった。

触れると壊れそうで、でも好奇心が勝って、柔らかな髪に触れた。
少しだけ撫でて、親指で涙を拭った。
薄い唇が少し開いて、その赤に、目が奪われた。



「っ、」



吐息がかかるほど近づいていたことに気付いて、咄嗟に距離を置いた。
額に滲む汗をぬぐってやり、寝室を後にする。

らしくない。
自分のしたことを思い出しながら、盛大に溜め息をついた。

触りたい、だなんて。
庇護欲を掻き立てられるというのは、こういう感覚なのだろうかと天井を見上げて思う。

初めての感情は、いかんせん、わからない。



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