12
「悪くなってる」
そんなことは、自分が一番わかっていた。
けれど売りをやめることは、負けることだと思っていた。
意地を張ることでしか、生きる意味を見いだせなかった。
「……っは、」
思わず嘲笑が漏れた。
穂積先生が眉をしかめるのがわかった。
「どうせ死ぬなら、」
生きることが、復讐だった。
自ら死ぬことは許されなかった。
けれど、解放されたかったのも、紛れもない事実だった。
身体を売って、金を稼いで、あの女の金を一切使わずに生きていく。
それが、生きる理由だったのだから。
「身体なんて、どうでも、っ……」
息がつまって言葉が途切れた。
遅れて左頬がじん、と熱くなる感覚がした。
平手で殴られた、そう気づいた頃には胸ぐらをつかまれていた。
「ふざけたこと言ってんじゃねえ」
殴ったのは―――眉を顰めて怒っていたのは、乾龍平だった。
隣で「おい、」と穂積先生に咎められても、胸元の手は緩められることはなかった。
「何に意地になってんのか、俺は何も知らねぇけど」
なんて真っ直ぐな目をしてるんだろうと、静かな心で思う。
『……こんなことしたくて、やってるわけじゃない……っ』
あの日思わず飛び出た言葉を、彼はきっと、覚えている。
「俺が知るまで、死ぬな」
この時頬を伝った水分の意味を、僕はまだ、理解することが出来なかった。
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