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穂積先生が家にやって来たのは、次の日の日曜日だった。
相変わらず乾龍平はうちに居座り、穂積先生を呼んだのも彼だと察しはついた。
風邪も治っていたわけではなく、ベッドの上での対面となった。
「………」
私服姿の穂積先生は、部屋に入ってくるなり無言だった。
その重苦しい空気に、僕も自然と口をつぐむ。
そういう雰囲気は知っていた。
いつもの保健室とは違う、医者としての顔を見せるそのとき。
何も言わない方が賢明か、と無表情の穂積先生を見つめた。
無言のまま、穂積先生の診察が続いた。
乾龍平は少し離れたフローリングに座り、壁に背を預けている。
私服なのに聴診器をつけた姿がやけに不自然で、ぼうっとした頭で服が捲られるのを認識していた。
「……佐倉」
低い声がした。
穂積先生の声だと気付くのに、少しだけ時間がかかった。
「もう、身体を売るのやめろ」
身構えていたつもりで、けれどその言葉はお腹の底に重く響いた。
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