10
 

「まだ熱あるんじゃねぇの」



乱暴に前髪をかきあげられた。
頭を振って手から逃れると、頬に手の甲を当てられる。
ひんやりとしたそれは、心地よく感じた。



「熱い」
「……さっきまで眠っていたからです」



大丈夫だから、早く帰ってくれ、と伝えるつもりだった。
僕が口を開くよりも先に、腕を掴まれてしまう。
咄嗟に抵抗して腕を引くけれど、それに苛立ったように腰に腕を回されて、肩に担がれてしまった。



「っ……はな、せっ……!」
「うっせぇ、黙ってろ」



香水の匂いだろうか、広い背中から良い匂いがした。
視界が反転して、背中に柔らかなベッドの感触が触れた。
起き上がる暇もなく布団を被せられて、杭を打たれるように押さえつけられる。



「なん、ですかっ……」
「病人は黙って寝てろ」
「っ」



早く帰れ。
僕に関わらないでくれ。
そう思うのに、言葉に出来ない。



「……行っとくけど。俺まだ帰るつもりねぇから」



漫画読み終わってねぇし、と取って付けたような言葉。



(なんなんだ、お前)



馬鹿じゃないのか。



「ここで死なれたら、俺が穂積に殺される」
「……知りません、そんなこと」
「誰のせいで、んな面倒なことしてると思ってんだ」
「だったらっ……」



帰れ、というつもりだった。
言えなかったのは、咄嗟に目を隠されたから。



「……ほっとけねぇんだよ、馬鹿」



どんな顔して言ってんだ。



この、馬鹿。



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