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「どうして、ここに」



昨晩の自分の失態や、彼がしてくれたことを忘れたわけではない。
けれど素直に言葉に出せないのは、自分の意地の悪さと理解はしている。
乾龍平はそれを気にすることもなく、一口飲み物を口に含んでから、飄々と語りだした。



「穂積からのお使い。煙草バレた口止め料」



言われて気づく、微かな煙草の匂い。
ん、と渡されたのはやけに大きな白い紙袋だった。



「なんかよくわかんねぇけど。いつもの薬と、学校からの書類とかなんとかだと」
「……どうも」



定期的に穂積先生から渡される、常備薬のことだろう。
確かに切れそうになってはいたから、ありがたくもある。

流されそうになって、はっとした。
これだけの用事であれば、置き手紙でもして帰ればいい。
丸一日時間を潰すような、まるで一度寮に帰ってまた戻ってきたような、そんな様子がみえる。

そんな僕の視線に気付いたのか、あぁ、と呟きながら乾龍平はそっぽを向いた。



「そら、倒れたやつ放っておくほど、人でなしじゃねぇよ」
「……お人好し」
「あ?」
「学校は、」
「今日土曜」



折角の休みに、こんなところにいるなんて。
やっぱりお人好しなんじゃないかと、悪態をつきたくなる。

懐に入ってこないでほしい。
今まで守ってきたなけなしのプライドを、蹂躙されたような気になるから。

きっと穂積先生と乾龍平は同じ性質の人間で、お人好しだから僕みたいなやつを放っておけない。
けれど最後には面倒くさがって、投げ出すのだろうとも思う。
その最後が想像できるから、最初から関わらないでほしい。

母親と同じ、僕は非常に面倒くさい人間だから。



「……おい、聞いてんのか」



ぼんやりしていたらしい、声に気づいた頃には、乾龍平はソファから立ち上がって僕の目の前にいた。



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