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「な………で、」
声にならないのは、恐らく発作のせい。
わかっていてかそれともわざとか、乾龍平は無言で僕の服に手をかけた。
少しだけ首もとを開けられて、外気に触れた肌に、温かいタオルが滑る。
突き放せないのは、力が出ないから。
目の前の姿を、ただぼんやりと見ていることしか出来なかった。
徐々にシャツの前が開かれて、濡れタオルを持つ手が、ピタリと止まった。
胸の真ん中、やや左側。
残された心臓の手術痕は、消えることはない。
少しの静寂の後、また温もりが滑る。
新しい服を着せられて、その頃には疲れもピークに達して、ベッドに突っ伏した。
「佐倉」
低い、いつもより落ち着いた声がした。
こんな声も出せたんだろうか。
突っ伏したまま後ろを目線で追うと、薬と水の入ったコップ。
無視するように、枕に顔を埋めた。
頭がひどく痛い。
ガンガンと響くそれを感じながら、身体が起こされるのがわかった。
背中を何かに預けられ、顎を掴まれて横に向かされる。
濁流のように流し込まれたのは、水と、確かな温度をもった吐息。
薬と水とが無理矢理開かれた口から流し込まれて、惰性で嚥下する。
それを確認してからか、唇から熱が離れた。
解放されると同時に、またベッドに突っ伏す。
頭が痛い。
気持ちが悪い。
熱で浮かされた思考は、まとまることはない。
ただ確かに、そっと頭を撫でた大きな手を視界の隅に捕らえて、静かに、意識を手放した。
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