6
 

どうするか。

このまま、住人が通るのを待つか。
そんな失態はしたくなかった。
誰にも自分の存在を知られたくなかった。



「けほっ……ひゅ、けほげほっ……ぅ……?」



息苦しさに、視界がぼやける。
ふわりと身体が浮いた感覚がした。

不安定なそれに、必死にしがみつく。
きゅ、と掴んだそれは、誰かの服。



「けほっ……」



咳き込むと、背中を擦られた。

鍵をあけられて、エレベーターに乗って、部屋の前にまで来ていた。
わかるのはそれだけで、混乱した頭では誰かなんて理解も出来なかった。
苦しくて苦しくて仕方がない。



「っ、は……」



ベッドに下ろされて、すぐに震える手でサイドテーブルの引き出しをあさる。
手にした吸入器は、目の前でかしゃんと床に落ちた。

ちっ、と舌打ちしたくなる。
ベッドに乗ったまま床に手を伸ばして、それが、目の前でとられた。



「っ……は、ふ……はぁ、はぁっ……」



吸入器は誰かの手によって、僕の口に添えられた。
咄嗟に両手で掴んで、喘ぐように空気を吸う。
むせかえるほどの空気に、必死になっていた。



「……?」



いつのまにか出て行っていたらしい、片手に服を抱えた―――乾龍平が、またベッドに近づいてきた。



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