5
 

僕の身体は些細な風邪でさえ満足に退治できないらしい。



「けほっ……」



寒さは外気のせいか、それとも。
思わず袖を引っ張って手を隠すと、買い物袋がかさりと鳴った。

案の定、微熱から本格的な風邪に変わった。
ここ三日ほど、熱がひかない。
けれど生きていれば家のなかの食料はなくなるわけで、冷蔵庫の中に薬を飲むための水さえもないことに気付いて、買い物に出た。

一人暮らしだと、こういうときは煩わしい。
けれど穂積先生などに頼んだりはしない。



「……はぁ、っ」



いつもは近い道のりも、熱で頭がぼんやりして、遠く感じる。
早く部屋で寝よう、そう決めてなるべく歩を速める。

マンションが見えてきて、安心した気持ちになった。
ロビーに入ってオートロックを開けようと鍵を持ち上げたとき、



「っ、げほげほッ、!」



どくん、と心臓が鳴った。

やばいと思ったときにはもう遅かった。
鍵が指の間をすり抜けて床に落ちた。
その音さえも遠くに感じる。

そのままずるずると座り込んで、息を整えようとする。
肩が震えるそれは、経験からいくと喘息の発作。

少しの間だからと、いつも持ち歩いている薬を置いてきたのが仇になった。



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