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視界が変わって、ソファからベッドに移動させられたのだと理解する。
うたた寝でもしてしまったのだろうか。
目を片手の甲で覆って、微かな頭痛を感じた。
「………身体、熱いな」
ベッドに運んでくれたであろう穂積先生が、額に触れて呟いた。
うたた寝したことに触れないのは、単に咎める理由がないからか。
寝言で何か言っていたとしても、黙っているのがこの男だ。
今更何と思われたって構わなかった。
「微熱あるな。今日はもう帰れ」
「………だるい」
「送ってやりたいとこだが、これから会議あるからな」
「………」
「……乾、連れてくるか」
「……一人で帰る」
穂積先生のことだ、きっと冗談ではなく本当に乾龍平を連れてくる。
だるさは抜けないけれど、ゆっくりとした動作で帰宅の準備をした。
ずっしりと重い鞄が身体に響く。
いつ家で死んでもいいように、学校に私物を置いて帰ることはしない。
「帰ったら安静にしとけよ。金稼ぎに出たりしたら承知しねぇからな」
「………わかってる、」
お人好し。
でも、逃げられない。
僕が死んだら、少しは悲しんでくれるだろうか。
保健室のドアを閉めて、静かな廊下に佇む。
授業中独特の静寂な空気は、季節を無視して冷えて感じる。
ぴんと張りつめたそれを衝動的にぶちやぶりたくなりながら、一つ、歩を進めた。
苛々する。
自分の存在自体が。
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