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「最近、変わったな」
なんかあったか、と穂積先生が言う。
昼休みの保健室のソファは、僕の特等席だ。
「別に」
「ふぅん?」
「その顔やめて」
何が言いたいのかはわかった。
乾龍平。
やたらと最近ちょっかいを出してくる男。
今まで僕が誰かと話すことなんてなかったから、穂積先生は珍しく思っているのだろう。
適当にあしらえばよかったのかもしれない。
それも無理ではなかったはずなのに、どうして振り払えなかったのか。
―――あんな話をしてしまったのか。
「……なに」
考え込んでいると、穂積先生が頭をわしわしと撫でてきた。
「んーん、別に」
「………」
乱暴なくせに、ちょっと優しい手。
面倒な生徒のはずなのに、放っておけない性格なのか、やたらと気にかけてくる。
あの乾という男も同じなのかもしれない。
人の懐に入るのがうまい。
それとも、僕の懐がゆるいのか。
「……金、足りてんのか」
「……そこそこ」
「いい加減にしとけよ、そんなんじゃ治るもんも治らねぇ」
知っている。
でもこれは僕の意地だ。
必要なでかい金を稼ぐのに、身体を売るのは最適だ。
その行為が身体を痛め付けているのはわかっているけれど、やめれば生きていけない。
堂々巡り。
僕の意地が続く限り、終わらない。
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