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「ち、がう……っ」
え、と驚いた。
佐倉の声が、震えていたから。
どん、どん、と力なく俺を叩いてくる。
「なんで、そんなこと言うんですか、」
「や、だって」
「……こんなことしたくて、やってるわけじゃない……っ」
消え入りそうな、悲痛な声だった。
年相応と言えばおかしいかもしれないが、いつもの饒舌な佐倉とは違う。
こっちが、本当なのだろうなとも思った。
「……悪い、」
どうしたらいいかわからず、俺を叩く手を止めると、佐倉は背中を向けてしまった。
「……帰ります」
「あ、そうだよな、俺も……」
「……僕、寮じゃないので」
一緒に帰ろうという雰囲気の中で、佐倉はぽつりと言った。
ほとんどが寮生のこの学校で、佐倉のようなやつは珍しい。
「実家、近いの」
「……一人暮らし、です」
「送ってく」
「っ、いいです」
「こんな時間に一人で帰ってみろ、絶好の餌じゃねーか」
意味はわかったのか、佐倉はぐっと唇を噛んだ。
やがて歩きだしたので、無言の肯定ととらえて、俺はその小さな背中の後ろをついて行った。
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