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それから、俺と佐倉は何も喋らなかった。
俺はいつものようにばか騒ぎしたり、授業をさぼったり、街に遊びに出たりした。
佐倉はいつも、教室の窓側一番後ろの席に、静かに座っていた。
本をぱらりと捲る姿を、誰も見たりしなかった。
俺だって今までそうだった。
でも、顔にかかる前髪のなかを、俺は知ってる。
大きな目に、白い肌に、ひどく儚くて綺麗な顔立ちを知っている。
どんな声で喋るのかも知っている。
色んな秘密があることも知っている。
病気のことだってそうだ。
だからなのだろうか。
こんなにこんなに、佐倉が気になってしまうのは。
「……はぁ」
俺はいつものように、街に出ていた。
つるんでるやつらと一緒に行く気になれず、なんとなく一人でぶらぶらとCDショップを回ったりしていた。
(……あ、)
あの日の夜、佐倉を見かけた場所に差し掛かった。
相変わらずネオンがきらびやかで、いかがわしい雰囲気が漂っている。
なんとなく気分が悪く感じて、その場を離れた。
今も佐倉はあそこのどこかに、いるのだろうか。
そんなことを無意識に考えてしまっている自分がいて、ちっ、と舌打ちをした。
らしくない、と思う。
正直、誰かに執着したことなんて、ほとんどなかったから。
自分で言うのもあれだけれど、それなりに容姿は悪くないと思う。
黙っていればよってくるやつなんて、今までたくさんいた。
(なんでだよ……)
気になって気になって、仕方ない。
あのときの冷たい表情が、忘れられない。
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