8
 

それから、俺と佐倉は何も喋らなかった。

俺はいつものようにばか騒ぎしたり、授業をさぼったり、街に遊びに出たりした。
佐倉はいつも、教室の窓側一番後ろの席に、静かに座っていた。

本をぱらりと捲る姿を、誰も見たりしなかった。
俺だって今までそうだった。

でも、顔にかかる前髪のなかを、俺は知ってる。
大きな目に、白い肌に、ひどく儚くて綺麗な顔立ちを知っている。
どんな声で喋るのかも知っている。
色んな秘密があることも知っている。
病気のことだってそうだ。

だからなのだろうか。
こんなにこんなに、佐倉が気になってしまうのは。



「……はぁ」



俺はいつものように、街に出ていた。
つるんでるやつらと一緒に行く気になれず、なんとなく一人でぶらぶらとCDショップを回ったりしていた。



(……あ、)



あの日の夜、佐倉を見かけた場所に差し掛かった。
相変わらずネオンがきらびやかで、いかがわしい雰囲気が漂っている。
なんとなく気分が悪く感じて、その場を離れた。

今も佐倉はあそこのどこかに、いるのだろうか。
そんなことを無意識に考えてしまっている自分がいて、ちっ、と舌打ちをした。
らしくない、と思う。
正直、誰かに執着したことなんて、ほとんどなかったから。

自分で言うのもあれだけれど、それなりに容姿は悪くないと思う。
黙っていればよってくるやつなんて、今までたくさんいた。



(なんでだよ……)



気になって気になって、仕方ない。

あのときの冷たい表情が、忘れられない。



前へ top 次へ

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -