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どちらからともなく、笑っていた。
「どうして、泣くんですか」
「……泣いて、ねぇよ」
「嘘つき」
「うるせぇ」
二人でぽろぽろと涙を流しながら、笑っていた。
手は離せなかった。
「僕は、汚い、です」
「汚くねぇよ」
「でも、あなたならそう言ってくれるだろうと、思ったから」
哀しそうな笑みを浮かべるから、俺は佐倉の頭をがしがしと撫でた。
「昔のことなんて、知るか」
未来は、今から始まるのだ。
振り返っている暇なんてない。
俺が大切にしたいものは、『今』しかなかった。
「もう、後戻りできねぇからな」
「ん」
「覚悟出来てんだろうな、お前」
「そりゃあ」
ふふ、とおかしそうに笑う佐倉が、やっぱり愛しいと思う。
愛しいから、繋いだ手は離せなかった。
愛しいから、席を立つことは出来なかった。
何度も何度も、伝えるまでに時間はかかった。
それでも佐倉は、初めて応えてくれたから、また何度も何度も、伝えようと思うのだ。
「ほんと、好きだ」
けぶるような桜の花びらに埋もれるようにいた佐倉に、何度も伝えるのだ。
迷っても、見失っても、またここに来てくれるように、何度も伝えるのだ。
「うん」
声が返る存在が、今は確かに、ここにある。
「僕も、好きです」
桜が咲くように、佐倉は笑った。
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