3
「好き」
唇を離した佐倉は、消えそうな声で呟いた。
「え?」
俺は聞き返していた。
まさか、なんで、本当に、と疑うことしかできなかった。
うろたえる俺に、佐倉は目を細めて笑った。
そうして俺に腕を伸ばし、抱きついた。
情けないことに、俺の手は宙をさまよっていた。
この寄せられた身体を自分のものにしていいのか、今更ながらわからなくなった。
でも、一つだけ確かなことはあった。
「好きです、乾君」
伝わってくるぬくもりと、甘い声と、良い匂いだけは本物だった。
そっと細い背中に腕を回すと、首にあった佐倉の腕が強くなった。
ここにあることだけは、本物だった。
「まじ?」
「……まじ」
「どっきり?」
「じゃない」
「…………」
「……ムード、ぶち壊しですよ」
くすくす、と佐倉が笑った。
久しぶりに、佐倉は笑った。
それが涙が出るくらい嬉しかった。
伝わった思いも、伝えられた思いも、嬉しかった。
じわりと熱を持つ目を無視するように、佐倉の肩に顔を埋めた。
「ありがとう」
佐倉の声は、微かに震えていて、けれど、笑っていた。
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