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「だいぶ顔色良くなってきたな」



ベッドの傍らに座るのは、私服姿の穂積先生だった。

この人も、乾と同じだ。
僕をずっと気にかけてくれた。



「体調はどうだ」
「ん……」
「……ふぅん、数値も安定するようになってんじゃん」



医者から借りたのか、検査の結果を見ながら呟く。
乾は、今日はまだ来ていない。



「昨日、あの男から連絡があった」



誰かはすぐにわかった。



「悪かったって、言ってた」



僕こそ、謝らなければいけない。
彼だって僕を、愛してくれていた。
その方法が少し歪んでいただけのことだった。

あ、と僕は気付く。

幸せになってはいけないと思っていた。
幸せになる方法すら知らなかった。

僕の手元にはないと思っていたものは、本当はずっと、傍にあったのだ。



(気付かなかった、)



雪村さんと一緒にいたとき、乾が怖かった。
裏切ってしまったと思って、合わせる顔が無かった。
怯えて、拒否していた。

無意識に僕は、気付いていたのだろう。
色んなものに愛されて、どうしていいかわからなくて、怖かった。



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