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「横になるか?」
身体を動かすことすらままならない僕を、乾がそっと寝かせてくれた。
離れていく乾の手を、そっと掴む。
「……どうした?」
微かに、動揺した声だった。
額にかかっていたのだろう、僕の髪を払ってくれる。
「あ、りが、と」
―――『ちゃんと、言えよっ』
乾が叫んだ言葉が胸に突き刺さっていた。
僕はいつだって言葉が足らなかった。
言葉があったって、伝わらないのだと思っていた。
言ったって変わらない事実はたくさんある。
それでも、彼は言葉が欲しいと言った。
言わなければ、わからないと言った。
彼は僕の言葉を、拾ってくれるのだと知った。
だから少しずつでも、伝えたい。
「ん」
ふわ、と優しい笑顔だった。
わかってる、と言っているようだった。
乾の大きな手の甲を意味もなく撫でた。
僕のガリガリな手とは違う、ごつごつして、しっかりした手だった。
いつもこの手は、僕に差しのべられていた。
知っていて、気のせいだと思いこもうとして、知らんぷりをしていた。
「佐倉、くすぐったい」
そう小さく笑うので、思わず離そうとすると、逆に手を掴まれた。
きゅっと握られると、ぬくもりが移るように手が温かくなっていった。
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