6
「はぁ……」
帰ろうにも、帰れなくなってしまった。
真っ青な顔をした同級生を放っておけるほど、俺は非道な人間でもなかった。
「………」
すぅ、と佐倉の寝息だけが聞こえる。
もぞもぞと出した顔は、無防備なものだった。
(睫毛、長……)
長い前髪は、顔を隠すためなのだろうか。
今は額からはらりと落ちてしまっており、普段は見られない顔が見えている。
会話すらしたこともない、顔もきちんと見たこともない佐倉は、初めてあった他人のように見えた。
けれど、目が話せなかった。
「……ん、」
佐倉が身じろぎして、うっすらと目が開いた。
「あ、起きた?」
「………っ!」
がばっ、と上半身が上がる。
「な、に……っ」
混乱しているようだった。
そうだろう、親しくもない俺が隣に座って、ふたりきりの状態なのだから。
「途中で倒れてたんだよ。穂積は出張で、俺がお留守番」
混乱しながらも理解はしたのか、そのままの勢いでベッドから出ようとした。
が、ふらついて手をついてしまう。
「っちょ、まだ体調悪いんじゃねーの?」
「……帰ります」
「ふらついてんだろ、」
押し問答を続けて、佐倉は疲れたのか、はぁ、と溜め息をついてベッドの上で大人しくなった。
「………」
「………」
「……あの、もう大丈夫なので、帰ってもらって結構です」
ありがとうございました、と頭を下げられて、どうしようかと考える。
本当ならばさっさと家に帰りたいところだが、なんだか、放っておけない。
いや、違う。
それよりも、もっと佐倉を、知りたいと思ってしまった。
前へ top 次へ