4
佐倉は何も言わなかった。
期待はしていなかった。
抱き締めていた身体を離して、帰ろうと思った。
もう、ここに来るのはやめようと思った。
けれど、
「っ………」
佐倉は、泣いていた。
きゅ、と折れそうなほど細い指が、俺のシャツを掴んでいた。
「なんで、泣いてんの」
「………っ」
「っ、言わねぇと、わかんねぇだろっ」
いつだって、言葉が足りない。
俺のことをどう思っているのかも、縋ったかと思えば拒絶して、受け入れたと思えば違う男と一緒にいて、それなのに、助けて欲しそうな顔をして。
売りをしていた理由も、一人でいた理由も、言わずに黙って一人で耐えていた。
「ちゃんと、言えよっ」
思わず責めるように叫んでいた。
気持ちを推し量れるほど、俺は器用じゃなかった。
じっと、涙をためた大きな目が、俺を見つめていた。
震える細い指が、俺の頬に触れた。
どちらから、というのは愚問だった。
気付けば、唇を重ねていた。
前へ top 次へ